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インコタームズのDAP(仕向地持込渡し)とは?DDP・DPUとの違いを解説
国際貿易では、「インコタームズ(Incoterms)」を用いることで、費用やリスクの分担を明確にできます。中でもDAPをはじめとするDグループは、売り手側の責任範囲が広く設定されており、実務上の理解不足がトラブルの原因になることもあるため注意が必要です。
この記事では、DAPの基本的な仕組みから実際の物流フロー、DDPやDPUとの違いについて詳しく解説します。
インコタームズ2020には、Dグループを含めた4つの大きな分類がある
国際貿易における取引条件を定めたインコタームズは、取引上の費用やリスクの分担を明文化した国際的なルールです。2020年1月1日に発効した最新版の「インコタームズ2020」では、11種類の取引条件が4つの大分類(Eグループ・Fグループ・Cグループ・Dグループ)に分けられています。
<インコタームズ2020の分類>
・Eグループ:EXW
・Fグループ:FOB、FCA、FAS
・Cグループ:CIF、CFR、CIP、CPT
・Dグループ:DAP、DPU、DDP
このうちDグループに分類されるDAP(Delivered at Place/仕向地持込渡し)・DPU(Delivered at Place Unloaded/荷卸込持込渡し)・DDP(Delivered Duty Paid/関税込持込渡し)は、買い手の指定する仕向地まで売り手が貨物を届ける義務を負う条件で、売り手の負担が最も大きくなっています。その反面、買い手にとってはリスクと手間が軽減される条件といえるでしょう。
インコタームズ2020について、詳しくは下記をご確認ください。
インコタームズ2020とは?2010年版との違いと変更点を図解付きで解説
FCAについて、詳しくは下記をご確認ください。
インコタームズのFCA(Free Carrier)とは?FAS・FOBとの違いなどを解説
DAPとは、インコタームズのDグループの取引条件の1つ
DAPとは、売り手が貨物を買い手の指定した仕向地まで輸送し、引き渡しのタイミングで、貨物に関する費用とリスクの負担が売り手から買い手へ移転する条件のことです。輸入国での埠頭(船に貨物の積み降ろしをする港の作業エリア)や港湾地区の倉庫、コンテナヤード、鉄道駅などのターミナルにおいて、荷卸の準備ができた状態で買い手に引き渡します。荷卸自体は買い手の責任とされるため、その作業に伴う事故や追加費用も買い手側の負担となります。
DAPは、売り手にとっては輸送全体の管理責任とコスト負担が重い条件のため、契約時の慎重なリスク評価と情報共有が重要です。
■DAPの特徴
| 特徴 | 内容 |
| コストの負担 | 売り手が買い手の指定する国内外の目的地までの輸送にかかる費用を負担し、買い手は貨物が到着した後の輸入通関やそれ以降に発生するコストを負担する |
| リスクの移転 | 貨物が目的地で買い手に引き渡された時点で、売り手から買い手へ移転する |
| 通関手続き | 一般的に輸出通関は売り手、輸入通関は買い手が手配する |
■DAPのコストとリスクの範囲

通関について、詳しくは下記をご確認ください。
DAPの歴史とインコタームズ2020での改訂内容
DAPは、「インコタームズ2010」で初めて導入された比較的新しい取引条件です。それ以前は、DAF(Delivered at Frontier/国境持込渡し)、DES(Delivered Ex Ship/本船持込渡し)、DDU(Delivered Duty Unpaid/関税抜き持込渡し)といった複数の条件がありました。インコタームズ2010では、これらを統合・整理する形でDAPが新設され、より汎用的で柔軟な取引条件として採用されるようになったのです。
さらに、インコタームズ2020ではDグループの中で下記のような改訂も行われました。これらの変更により、Dグループは売り手と買い手のニーズにより柔軟に対応できる構成となっています。
<インコタームズ2000でのDグループの改訂内容>
・DAT(Delivered at Terminal/ターミナル持込渡し)を廃止し、引き渡し場所をターミナルに限定しないDPUに統合
・売り手が荷卸を行うDPUの導入により、引き渡し場所の自由度が向上
DAPが注目されている理由
国際貿易では、その柔軟な取引条件からDAPが注目されています。ここでは、DAPが注目されている理由と、売り手・買い手それぞれにとってのメリットについて解説します。
<DAPが注目されている理由>
・売り手と買い手のコスト・リスク負担の範囲がクリアになる
・サプライチェーンが柔軟になる
・物流のコスト管理をしやすい
売り手と買い手のコスト・リスク負担の範囲がクリアになる
DAPが注目されている理由の1つは、取引当事者間で責任範囲を明確にできる点です。国際物流において、どのタイミングで費用とリスクが移転するかは、通関・輸送・納期に直結する重要事項といえます。
例えば、近年は米中貿易摩擦や各国の経済連携協定(EPA)などにより、関税率が変動するケースが増えています。こうした状況下では、通関手続きの対応や関税の負担をどちらが担うかを曖昧にすると、トラブルの原因になりかねません。
DAPでは、輸出通関は売り手、輸入通関は買い手といった役割分担が明文化されているため、想定外の費用や責任を被るリスクを避けることができます。結果として、両者にとって公正な関係を築くことが可能になります。
サプライチェーンが柔軟になる
サプライチェーンが柔軟になる点も、DAPが注目されている理由のひとつです。物流のグローバル化が進む中、サプライチェーンの柔軟性は企業競争力に直結します。その柔軟性を確保できる取引条件がDAPです。
DAPであれば、売り手が輸送手配を一括して行い、買い手の指定場所まで貨物を届けることで、買い手側のオペレーションは最終受け取りだけに集中できます。また、買い手は輸入通関を自社で管理できるため、責任分担のバランスが良い条件といえるでしょう。
物流のコスト管理をしやすい
物流コストを管理しやすい点も、DAPが注目されている理由として挙げられます。売り手は輸送業者やルートを自社で選定するため、出荷・輸送を一括管理しやすい点が特徴です。
また、買い手においても、費用負担は輸入通関以降に限定されるため、コスト計算がしやすくなるというメリットがあります。コスト構造が明確になれば、コストの最適化も可能になるでしょう。
DAP・DPU・DDPの違い
Dグループには、DAP・DPU・DDPの3種類があり、いずれも売り手が最終仕向地まで貨物を輸送する点では共通していますが、コストとリスクの移転ポイントが異なります。
DPUは、売り手が指定された仕向地まで貨物を輸送し、さらに荷卸まで行う取引条件です。荷卸完了時点で、コストとリスクの負担が買い手に移転します。DDPは、売り手が輸入通関や関税の支払いを含むすべてのコストとリスクを負担する取引条件です。指定場所での荷卸準備が整った時点で、リスクは売り手から買い手へ移転します。
それぞれの条件をまとめると下記のとおりになります。
■DAP・DPU・DDPの違い
| 条件 | リスク移転 | 荷卸 | 輸入通関・関税 | 売り手の負担 |
| DAP | 荷卸準備完了時点 | 買い手 | 買い手 | 中程度 |
| DPU | 荷卸完了時点 | 売り手 | 買い手 | やや大きい |
| DDP | 荷卸準備完了時点 | 買い手 | 売り手 | 非常に大きい |
このように、DAP・DPU・DDPは「誰がどこまで責任を持つか」によって明確な違いがあります。特にDDPは、売り手の負担が非常に大きくなるため、実務では慎重な検討が必要です。
■DAP・DPU・DDPのコストとリスクの範囲

DAP・DPU・DDP契約時の注意点
Dグループはいずれも、売り手が買い手の指定地まで貨物を輸送するという共通点がありますが、その分、売り手側の責任やリスクも大きくなります。特に実務上では、費用やリスクの範囲についての誤解がトラブルの原因になることも少なくありません。
ここでは、DAP・DPU・DDPを契約する際の注意点について解説します。
<DAP・DPU・DDP契約時の注意点>
・DAP・DPU・DDPは売り手にとって負担が大きい
・貨物を引き渡す場所を明確に記載する
・リスク移転のタイミングを明確にする
DAP・DPU・DDPは売り手にとって負担が大きい
DAP・DPU・DDPの契約時には、売り手にとって負担が大きいという点を認識しておきましょう。Dグループはすべて、仕向地までの輸送に加えてコストやリスクの一部を売り手が負担する内容となっており、売り手にとって負担の大きい取引条件です。
特にDDPは輸入通関や関税の支払いまでを含むため、目的国の制度や手続きに精通していないとリスクが高く、予期せぬコスト増加の要因になります。
また、DAPやDPUでは輸入通関を買い手が行うため、通関の遅延や不備が発生した場合に、売り手側の納期に悪影響が及ぶリスクもあります。これを回避するには、価格設定や契約条項でリスクヘッジを行い、負担増加を抑制する工夫が必要です。
貨物を引き渡す場所を明確に記載する
DAP・DPU・DDP契約時には、貨物を引き渡す場所を明確に記載する必要があります。Dグループでは、指定の仕向地が不明確だと費用負担やリスクの認識にズレが生じ、トラブルの原因となります。
費用負担やリスクの範囲が変わる可能性もあるため、契約書やインボイスには、具体的な施設名や住所、ターミナル番号などまで詳細に記載しなければなりません。もし引き渡し場所に変更が生じた場合は、すみやかに書面で合意を取り直すようにしましょう。
<主な引き渡し場所の例>
・港湾コンテナターミナル
・空港貨物地区
・買い手の指定倉庫・工場
・鉄道貨物駅
・国境地点(トラック・列車など)
リスク移転のタイミングを明確にする
リスク移転のタイミングの明確化も、DAP・DPU・DDPの契約時に注意したい点の1つです。事故は貨物の積み込みと積み降ろしの際に発生しやすく、責任範囲が明確になっていないとトラブルが拡大する可能性もあります。
例えば、DAPおよびDDPのリスク移転のタイミングは、荷卸の準備が整った時点です。一方、DPUでは荷卸完了後に移転するため、売り手がより長く責任を負うことになります。
輸送条件明確化のため、契約書にはリスク移転の条件や時間帯、場所を具体的に記載するようにしましょう。
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DAPは買い手の負担を軽減できる一方で、売り手には輸送・手配・スケジュール管理といった多くの責任が伴います。こうした実務上の負担を適切に管理するには、国際物流に精通したパートナーの存在が不可欠です。
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よくある質問ーMGLが答えますー
Q. DAP(Delivered at Place/仕向地持込渡し)とは?
A. DAPとは、売り手が貨物を買い手の指定した仕向地まで輸送し、引き渡しのタイミングで、貨物に関する費用とリスクの負担が売り手から買い手へ移転する取引条件のことです。輸入国での埠頭や港湾地区の倉庫などのターミナルにおいて、荷卸の準備ができた状態で買い手に引き渡します。荷卸自体は買い手の責任とされるため、その作業に伴う事故や追加費用も買い手側の負担となります。
詳しくは「DAP(仕向地持込渡し)とは、インコタームズのDグループの取引条件の1つ」をご確認ください。
Q. DAP・DPU・DDPの違いは?
A. DAP・DPU・DDPの違いは、コストとリスクの移転ポイントです。DAPは荷卸の準備ができた時点でコストとリスクの負担が買い手に移り、DPUは荷卸完了時点でコストとリスクの負担が買い手に移転します。DDPは、指定場所で貨物を降ろす準備が整った時点で、リスクは売り手から買い手へ移転します。
詳しくは「DAP・DPU・DDPの違い」をご確認ください。
Q. DAP・DPU・DDP契約時の注意点は?
A. DAP・DPU・DDPは、売り手にとって負担が大きいという点に注意しましょう。また、指定の仕向地が不明確だと費用負担やリスクの認識にズレが生じ、トラブルの原因となるため、貨物を引き渡す場所を明確に記載する必要があります。併せて、リスク移転のタイミングを明確にすることも重要です。
詳しくは「DAP・DPU・DDP契約時の注意点」をご確認ください。
※IncotermsはICCの登録商標です。
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